かぐわしきは 君の…
    〜香りと温みと、低められた声と。

    おまけというか蛇足というか



片方の膝を立ててという、見ようによっては勇ましい座り方。
実をいや、あんまり得意ではない正座を崩したそのついで、
懐ろに抱えた大切な人をしっかと支えられるようにと、
背もたれ代わりの壁へ辿り着くがため、
そのままじりじりといざり下がった蹴り足にしたまでで。
何か妙なことをしているようだなと、
途中から気がついてはいたのだけれど、

 「?」

どうしたの?と見上げたら、なぁにと ほわり微笑ってくれたので、

 「〜〜。//////」

いやいい、何でもないと、
かぶりを振って、それ以上深くは聞かなんだ。
それほど体格に差があるでなし、
いくら、腕の尋があるとか肩幅・胸幅が広いといった、
大人の男性の体格を生かしたとて、
お互い様の容量だけに収まりがいいはずはないのだが。
そういや、昨日もこうやって凭れて休ませてもらった折、
ちいとも窮屈じゃあなかったのは、

 ……イエスに慣れでもあったからかな?

ああ、いかんいかん、
早速にも そんなけしからん猜疑心に惑ってどうするか…
というか。

 ああ、そっか…//////

慣れているはずだ、
時々寝ている私をきゅうと抱え込んでたと言ってたじゃあないか。
きつすぎない抱えようくらい、身についててもおかしかない。

 「…? なぁに?」

すべりのいい髪は微かな震えも伝えるか、
ふふと苦笑したのが伝わって、
肩からするするさらりと幾条もが零れたらしく。
泣きやんでくれたのは重畳だとして、
何か楽しいことあったの?と訊く彼へ、

 「何でも…」

ん〜んとかぶりを振りながら、顔を上げたら…案外と近い。
イエスからも覗き込もうとしたらしいのと、
鼻先が当たりそうになったほどの間近で視線が絡まって。
さすがに、咄嗟の反応では、あっと互いに驚いたものの、

 「…。」

ああ、やっぱり綺麗な瞳だなぁって。
伏し目がちになると
まつげの陰が玻璃玉みたいな潤みに陰を落として
別の、そう憂いを帯びたような色が加味されて。
そんな双眸をつい見つめてしまっておれば、
イエスの方からも、こちらの視線を真っ直ぐに受け止める。

 「…ねえブッダ。」
 「? なに?」

内緒だからということか、もっととお顔を寄せて来る。
何だろと動かずに待っておれば、
綺麗な眼差しがかすかに揺れて、下へとこちらの視線を誘なった。
そのまま伏せられてゆくのへこちらも釣られ、
泣き腫らして火照った頬へと
まぶたの縁が降りるかどうかになったところへ。

 薄く開いていたこちらの口許へ、
 しっとりしたものが触れて来て

少し斜めに角度のついた触れようは、
日頃の習慣で慣れがあるからかなぁ。
あ、ちょっとだけ下唇に何かが触れた。
食むようにって、こういうのを言うのかな。
唇の形を確かめるみたいに、さわりと柔らかなそれが動いて。
薄く離れたのに微熱同士はつながり合ってて、
それが肌同士がまだ間近いのを伝えるよう。
うっすらと目を開ければ、
彼も同じように睫の陰からこちらを見やってて。

 「ブッダ。」
 「……なに?」

 もっかい いい?
 訊くなよ、もう。//////

いつもの彼なら怒っただろうに、くすんと笑ったブッダだったのは、
まだちょっと、夢見心地なままだからだろか。
さっきは気にならなんだらしい髭が、
擽ったいのへ ふふふと吹き出すのが、
何とも愛おしくって堪らない。
ほんの半日の間に、そりゃあもうもう色々あって。
几帳面で生真面目で誠実な、自分に厳しいブッダには、
そりゃあもうもう、
翻弄されまくりの消耗されまくりだった1日に違いないもの。

 そんな堅物がよくもまあ、
 フレキシブルが過ぎると評判の、私とともに生活出来ると

ペトロだったか、いやアンデレだったかな。
それは感心していたものだったっけね。
日頃の冷静さの何十倍もの想いを振り絞ったり、
過剰に衝撃を受けたせいでの涙が止まらなかったりしたせいか、
今は泳ぎ疲れた幼子みたいになっていて、
さすがにくたびれましたと、
すっかりこちらに凭れ切ってくれていて。
絹糸みたいな濃色の髪が、
どう頑張っても螺髪へまとまってくれないらしいので。

 まだまだ回復してはないらしいとし

どちらから言うともなく、身を寄せ合ったままでいる。
視線が絡まり合ったついで、
それは綺麗な深瑠璃の瞳に見入り、
そのまま ついつい口づけ落としても、
怒ったり嫌がったりしなくって。
まま、ブッダはこれでも既婚者で、息子さんもいるのだ、
まさかに初めてってことはないだろうけれど。

 「好きだよ、イエス。」
 「ん、私もだよ。大好きだ、ブッダ。」

唇がそおと離れるのを名残り惜しむよに、
堰を切ったように紡がれたのが、
ブッダからの甘やかな告白で。
せぐり上げた余波か声も掠れていて、それに小声だったので。
恥ずかしいのかと思ったが、

 「好きだよ、大好き。」
 「うん。ありがとう、ブッダ。嬉しいよvv」

言えなかったこと、言ってはいけないと封をしていたこと。
それを言ってみたかったらしくって。
何度も繰り返すのを、よしよしと受け止める。
今ならまだ、興奮の余熱の中での気の迷いで済むのだし。
実際、とろりとした眠そうな眼差しになりつつあるので、
ああ、このまま寝かせてあげようかとも思ってた。
時間帯も同じくらいだし、何だか昨日のリフレインだね。
こちらの懐ろに少しずつ凭れかかる、
アンズの匂いのする愛しい君を、もっと独占せんとして。
やさしい線を描く肩、少し、も少し引き寄せる。

 なぁに?

微かな身じろぎへ、まぶたは上がらぬまま、訊いて来るから、

 うん、大丈夫だからね?
 …なにが?

甘ぁい声なのがくすぐったい。
ああ可愛いなぁとついつい口許を緩めつつ、

 ずっとずっと一緒にいようね?
 うん。
 大切にするからね?
 うん…。

何だかプロポーズみたいな言いようをしちゃったなって、
ややもすると照れ臭くなっておれば……、



  「…………………あ。」



五十音のその初め、
いやにくっきりと、発音なさった釈迦牟尼様で。

 ………どうしたの?

どこか具合が悪くなったの?と案じれば、
彼が身を起こした動作に合わせ、
さらさらという繊細な
銀線か金線かの金属音さえ聞こえて来そうな流れようをした
それは見事な深藍色の髪からの、
切ない主張とも言える一言が


 「あじえんす、買いに行かなきゃ。」
 「……………っ☆」


そういや言ってたね。200円も安いなんて破格だよね。
会員証が要る割引なのかな?
そうじゃないけど、お一人様1パック?
ああじゃあ、その髪でも大丈夫じゃない?
うん、私も行くよ、2つ買えるねと。
これはこれで、
どこのヘアモデルさんかしらと注目浴びそうな
麗しのあじえんす・びゅーてぃーと連れ立って、
表へ出ようというヨシュア様。

 梅雨が明けたら花火大会があるんだって。
 わあ、絶対に見に行こうね、と

嵐は過ぎたし、幸せいっぱい。
トートバッグを肩に提げ、
鈴つきの鍵を取り出しながら。
誰に遠慮が要るものかとの、
至って呑気な会話を交わすお二人だったが。


……何があったか、立川界隈の異変の中心、
二人が移動したら混乱にますますの拍車が掛かるかも?
来たる夏は“百年に一度の酷暑”だそうなので、
不思議現象の1つや2つ、今から増えても大丈夫vv
玄関前へと移されていたサボテンの鉢、
パタンと出てった二人を見送って、
小さな赤い花がぽちりと咲いたのも、
うん、大丈夫だよ、きっとねvv(う〜ん)




  〜どさくさ・どっとはらい〜  13.07.21.


 *あまりに理屈こねまくりな終章だったので、
  放ったらかしにしちゃったネタもあることだしと
  微妙なサービスシーンのおまけです。
  長々とお付き合いくださり、ありがとうございましたvv


めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv


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